11月

2017年11月10日

--山茶始開(つばきはじめてひらく)
-17.11.07
32.いつか飛び立つ翅を持った植物
朽ちた蝶を埋めた土から芽が出た。再び翅を広げたと思ったら、あれよあれよと言う間に数が増えた。植物なのか虫なのかも分からないが、庭を占領しないでおくれと囲いを作ってやるとぴたりと収まった。月に向かってのびのびと翅を伸ばしている。

33.裏庭の小さな変遷を記録し広報する者

裏庭の記録を片手に、お望みの区域へご案内。窓からはいつも金色の光が溢れる。あなたを今からあの光の向こうへお連れしますよと、金に斑模様の獣が言った。気に入りの小物だとかを紹介してくれて、訪れる者の視界を彩る。飾らないままの裏庭を楽園に見えるようにしてくれる。

-17.11.08
34.落ち葉の先導者
落ち葉が道を走る夕方。ダンスする茶色い葉を先導する鳥がいた。つむじ風を見つけると勇んで飛び込む。自在に駆け回って、仲間を増やし、時に脱落する者を見送る。いよいよ冬がやって来ると、残った落ち葉を呼び集め、空の彼方、山の向こうへと旅立つのだという。

35.形を持ってなお透明な水の子
水を摘み上げて形を整え衣を着せる。暗い池の水も、岩に溜まった雨水も、器に入れると透き通る。夜の天球を水辺に座り見上げる瞳は星々を飲み込み腹に入れるけれど、水に帰れば跡もなく溶けてしまう。

36.裏庭の音をよく知る選曲者
音を響かせる者。花の蕾の近くによく現れる。日当たりも見晴らしも良いから、音や声を集めるのに最適なのだという。その者の前で音は花粉のような粒として飛ぶ。背中の袋に集めた音の粒を、組み換え繋ぎ合わせて音楽とする。練り上げられた音楽は、祭りや優雅な夕方を演出するために放たれる。

-17.11.09
37.憂いに贈られた花持つ像
憂いの表情をたたえた像が飾られている。斜陽に陰は濃くなる一方。通りかかる裏庭の住人は、憂いの像のために植物や木の実を持って来て飾っていくので、表情によらず華やかに見える。花に囲まれた像も可笑しく思うのか、斜陽に隠れてにへへと笑ったりするらしい。

38.冬も快適に暮らす魔法生物
寒くなってくると蓑虫が吊り下がるようになる。魔法生物にも寒さに弱い者がいる。ある冬から蓑虫を真似て眠りにつく姿が見られるようになった。見慣れない蓑が下がっていても、中を確かめようとしてはいけない。彼らの快適なシェルターは、冷蔵庫のように気安くぱかぱか開いてはいけないものなのだ。

39.忍び足の魔法生物
そろりそろりと忍び寄る者がいる。夏にはずいぶん人を脅かして歩いたらしいが、秋になると紅葉した背中があんまり鮮やかで綺麗なので、喜ばれるようになってしまったとか。季節の移り変わりには魔法生物とて勝てはしない。色とりどりの落ち葉の中を、忍びもせずカサカサ音を立てながら散歩している。

40.勇敢な鼓笛隊の一員
裏庭にはたまに鼓笛隊がやって来る。鮮やかな衣装を纏ったメンバーが悠々と歩く姿は雄々しくて、見る者は自然と姿勢を正す。草葉の間を通り抜ける間、愉快なメロディは途切れない。笑い過ごすためにも鼓舞の音を絶やしてはならない。

41.知識を車輪に乗せて少し先の未来を見るネズミ
車輪占いをするネズミがいる。明日の天気も、今年の木々の実りの量もぴたりと言い当てる。未来を変えることは出来ないけれど、対策は最大の力である。どうしてこんなに当たるのかと車輪を覗き込みながら聞く者に、ネズミは微笑みながら「単なる長生きなのだ」と答える。

42.赤い毛の獣
赤い杭が何本か打ち込まれた一角がある。近くには獣が住む。彼はたまに伸びた毛を刈りに日向にやって来る。昼寝をするうちに赤毛は切り揃えられる。長くて丈夫な毛は魔力を帯びた糸になる。その糸で衣を編めば、退魔の力が宿るという。

-17.11.10
43.境界の上のサーカス団員
あちらとこちらを隔てる壁を、すいすいと渡る姿があります。彼は確かサーカス団の一人。鳥のように撃ち落とされることもなく、悪戯な子供のように引き摺り降ろされることもなく境界を歩きます。この一歩はどちら側にあるのだろうと考えながら、時間の許す限りここで過ごします。

44.ガラスの中の火山を観測する者
ガラスの中に火山がございまして、熱心に、枯れることなく赤い花を吹き続けています。火のように舞い上がる花は、雪のように辺りに降り、ほとんどが積もる前に消えていきます。観察する学者は、火山を一つの生命だと言います。

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