世界はきっともうすぐ終わる 

5.雪原に帰す

2019年08月20日

雪の沙漠を巨人が通る。世界の終わりを運ぶ巨人と呼ばれるが、彼は歩いているだけだ。世界の終わりだとか、明日の暮れだとか、あまり考えていないのだ。朝日で照らされた雪原の煌めきを黄色い花かと思って詰んでみたり、森が震え雪の帽子を脱ぐのに混ざって座り込んだり、地吹雪に隠れるつむじ風を掬い上げたりと、気ままに遊んでいる。それが小さき木々や人々にとっては、吹雪となり雪崩となる。白い塊が頭を殴る。村は根こそぎ持って行かれる有様で、巨人の一挙一動を見守り、振り下ろされる手は天罰と、もみくちゃになりながら受け入れた。花を摘もうとかざされた手により、生き物は一息に潰れる。家も森も。
...

6.ワルツの記録1

2019年08月20日

模倣になんの意味があるのだろう。
今、一つの星が、住人を引き連れて消滅した。
記録を引き継ぐことにした私は、初めて私の言葉で記す。終わってしまった世界で。

4.世界樹アパート

2017年08月31日

枝を広げた木は世界を支えていたが、終末が近いのでそろそろ朽ちようとしていた。まあ自分一本で世界を支えているわけではなく柱の一つみたいなものだから、役目を終える日だってそれほど慎重に選ぶことはない。西の隅の木はそんな風にして葉を一枚一枚落としていった。

3.世界すぐ終わる

2017年07月24日

何度目の目覚めだろう。体は動かず指すら重い。数を数えながら呼吸する。いち、に、さん。それ以上を数えるのはやめた。頭はまだ覚めない。
昨日世界終わったんじゃなくて?
眠りからの復帰ではなく終了からの起動だからこんなに重いんだ。途切れ途切れの記憶。受信の下手なラジオ。稼働限界を越えたコンピューター。ねぼすけの二度寝、三度寝。私の体が重いのではない。世界が意識を失っていたから、私たちも接触不良で消えたり点いたりする電球みたいになっているんだ。
世界が消えてしまえば私たちも消えてしまうので、厄介な話なんだけれども、こんなものだと思ってしまうとこんなものだ。ポンコツな世界だ。
「そうだよ、ねえ」
...

1.子供のお庭

2017年07月24日

真っ黒い髪をした少年が、上気した声で囁いた。寄せた耳で丁寧に言葉を拾って聞くには。

2.北岸の漂流物

2017年07月24日

北岸の灯台守は果てを知っている。海と陸を繋ぐ火を目指し来る者はもういない。それでも火を灯し続ける。灯台を守り続ける。
「海から来るのではないのだ」
さざ波が立つ海は、どれほど晴れていようと、高くに登ろうと、向こう岸が見えなくなった。灯台が投げた光を海が拾って押し返す。雲の隙間からも光の梯子が降りて、やはり海に落ち、岸に寄せられる。陰を溶かして暗く沈む海は絨毯だ。絨毯を踏んで、光が音も無くやって来る。
波が弾け魚の群れが散ってまた戻る。北の海は暗く、凍てつく水色に魚の鱗も染まって青い。魚は忙しく行進訓練中。隊列の向きが変わる瞬間チラチラと白い腹が光る。海のあちこちが光る。群れが遠ざかっていき、果てで溶けた。
...

© 2022 ほがり 仰夜
Powered by Webnode
無料でホームページを作成しよう! このサイトはWebnodeで作成されました。 あなたも無料で自分で作成してみませんか? さあ、はじめよう