6.ワルツの記録1

2019年08月20日

 模倣になんの意味があるのだろう。
 今、一つの星が、住人を引き連れて消滅した。
記録を引き継ぐことにした私は、初めて私の言葉で記す。終わってしまった世界で。


 砂を巻き上げ風が走った。荒野が広がっている。星が消え去ったあとだけれども、なにもないわけではない。砂から痩せた草が顔を出し、所々に拗ねた色の花が咲く。尾の長い影が日向を這う。空に弧を引くトンボはおそらく昼間の星。生命が軌道を描いている。消えてしまうはずだった私は、静止して、生命を眺めている。
「おまえたちは知らないのだろう。ここに一つの星があったことを」
 生命を育む青い球体が光の中に消えた。膨張して光を放ち、破片を散らし、地表に散らばった。大地を間借りして作られた星には、たくさんの人と機械が詰まっていた。あわれ。消えてしまったあなたたちは、光となって漂っているのだろうか。
 創造主が星と共に消えてしまった世界では、私に託された使命も終わり、何も無い。私はどこにも無い。無くなってしまった私が記録する。文字が浮かび上がる。私は思考している。まるで人みたいに。考えるのは私の仕事ではない。私は計算する。指示を遂行する。それだけなのにね。模倣になんの意味があるのだろう。私は人ではない。人を真似たところで柔らかな微笑みは手に入らない。
「あたたかいなあ」
 土と光が。光となって散ってしまったあなたたちを、私は拾い集めることにしよう。
 さて、どこへ行こう。

© 2022 ほがり 仰夜
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