1.12月

2017年07月24日
   はじめに

   2010-12-27 23:10:06

 これは花蛇の「のもす」と羽の生え揃わない何かの雛の「カタ」との、穏やかな日々の話です。
 穏やかな他は何も無い、退屈な草原で、彼らが出会った一時を綴ります。

1.12月

   12/27、よるのこと

「こんばんは、のもす」
「やあ、こんばんは、カタ」
 のもすは居眠りをしていました。一方の花は閉じていますから眠いのですが、もう一方の蛇は動き回りたいのです。それで彼はいつも眠いのです。
「カタ、手を貸してごらん」
「うん、冷たいよ。足の方がもっと冷たいよ」
「足はいいよ。私に上げんでくれ」
 カタは羽の生え揃わない何かの雛ですから、こんな足元の凍る日は苦手です。
「おお。冷たい。でもお前、来週は温かくなるだろう」
「何故? 来週は雪だ。大雪だって話だ」
「お前は雪を被って綿雪小人になると良いよ」
「それって雪だるまって言うんだ」

   12/29、あめのひ
   2010-12-29【01:00】ゆきのち雨

「静かに眠るんだ」
「雨たちと」
「雨音につぶされる!」
「雨に打たれて消える」
 二匹はとつとつと遊んでいました。何時間繰り返したでしょう。それでも夜の雨は透明で、数多ふっていて、語り尽くす事が出来ません。
「雨に虹がかかり」
「沢山のむしたち」
「我々は水車のように雨を受ける」
「のもすは半分お花でしょう、そうしたら雨は好きでしょう」
 カタは草で合羽を作りながら尋ねました。三着目の合羽でした。
 のもすは相変わらずうとうとと答えます。(これでも彼はしっかり目覚めているつもりです。)
「傘をおくれよ、風邪をひくから」
「今日はずっと雨なのかな」
「今度木を連れて来よう。鳥に頼んで種を撒いて」
「この草原に樹木は育たないさ」
「お前は種を運ばない鳥だ」
「鳥なんかじゃないのさ」
 しとしとしと、冬の雨に草原が揺れます。

   12/29、晴れた朝の幻聴
   2010-12-30【06:00】雨のち凍結

 その朝、シャンシャンと音がすると思えば、帰りのサンタクロースのそりの音でした。
「カタはまだクリスマス気分なのだね」
「いいや、いいや、君も聞いたろ」
 寝ぼけ眼のカタはえらく誇らしげです。カタもサンタクロースの話など信じていませんでしたが、二十五日の喧騒を忘れかけた今日この頃、開口一番この調子です。
「あれは白鳥じゃないのか。シャンシャンと綺麗な声で」
「白鳥は天上の鳥だろう。居るはずがないさ。ああぼくも蒼天に白くくりぬかれたあの鳥のように空の向こうへ行きたい」
「白鳥は空を飛んでいるのではないのかい」
「そうだと言うよ」
「となると空はそんなに深いわけではないのだろうか。ねえカタ。君はいつか空の奥を飛べば良い。何と言う場所だって?」
「天上」
「天井?」
「そうさ、天上」
「カタ、やめた方が良い。ネズミみたいだ。君はそんな寂しい場所に行くな」
「空の青、海の青にも染まず漂う」
 雨間の朝日に二匹は空を見ます。その先は見えません。不確かです。彼らもまた、氷粒を垂らした草の海に染まず漂う白鳥でした。
「サンタクロースの音はどこから聞こえたんだい」
「天上さ」
「まぶしいねえ」
「朝だもの。さあ、少し散歩して来るよ」

   12/30、ドライブのこと
   2010-12-30【14:30】雨返しのはずが晴れ

「どこへ行く」
「どこへでも。のもすはどこへでも行けないから、どこへでも連れていくよ」
 のもすは花蛇なので、にょろにょろと地を歩くのではなく、空へにょろにょろします。
「地平の広がりを私はいつか見てみたいんだ」
「ぼくが教えるよ。沢山歩くよ」
「カタ、一緒に空へ行こう」
「ぼくは飛べるかなあ」
「どこへでも行けるさ」
 それは素敵な時間の旅なのです。


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