2.1月

2017年07月24日

   1/1、新しい年のこと

   2011-01-01【07:00】渡り鳥の声響く晴れ

「明けましておめでとうございます」
「明けましておめでとう。カタ、大晦日は随分熱心に、何かを書いていたね」
「羽が生えますようにって草原のみんなに宛てて短冊を書いていたんだ」
「そうか、年賀状か」
 草原はざわめいています。新年は何かと忙しく、何かとそわそわするものです。
 今日は草原はおめでたく有り難い色に染まっていました。色の作り手である色虫の芸当です。彼らも喜んでいるのでしょう。朝日を拝むものと、今晩のお月さんを拝むものと、最初に仕留めた生き物を拝むものと、それぞれ違いますがみないつも以上に厳かに過ごします。
「のもす、今日は良い日だ」
「そうだよ、去った年と一番近い日だからね。沢山感謝し、今年もだらだら過ごそう」
「千歳老にお雑煮を作って貰うよ。のもすも食べるよね」
「蜂針の出し殻は少なめにしておくれ」
「ぼくは鳥羽の髄を多めにして貰おう」
「千歳老に宜しく」

   1/1、空と地の白
   2011-01-02【10:00】はれ

「北風が今日は大人しいね」
「のもす、地平を見て」
「ああ、地平が無いね」
「凄い雲だ。雲が地面に立っているよ」
「世界は平らなのかも知れないね」
 世界は緩やかに下っていますが、その日は本当に古い考えに浸っても良いなと思える、真っ白でもこもこな日でした。

   1/5、てつがくの風
   2011-01-05【18:30】かさかさした雪の暮れ

「カタ、私たちは存在しやすい形をしているんだ」
「のもすは雨風に吹かれて平気なの?」
「魂は極めて柔軟なんだ」
 時々のもすは目を瞑るようにして、空と会話するようにして話します。カタは密かに瞑想タイムと呼んでいますが、それほど大層なものではなく、てつがくタイムと言った方が良さそうです。
「私たちは風雨のために生きているんだ」
「雨はぼくたちのために」
 哲学は暇とも呼びますから。
「楽に生きよう」

   1/6、白
   2011-01-06【18:00】細かい雪と日射しの追いかけっこの日

「酷い雪だ。息が詰まる。のもすが咲いている場所も分からない」

「どこだいのもす」

「のもすー」
「のもすーー」

「埋もれる事もあるよね」
 そんな自然。

   1/9、静かな昼

「のもすが埋まってしまった」
 昨日から止まない雪に、草原は昼になっても眠っていました。雛のカタは元気に歩き回って、時々雪に埋まっては見慣れぬいつもの景色を観察していましたが、そろそろ寂しくなってきた様子。
「ここは平らで何もない。雪の下には豊かな起伏が広がっているのに」
「ああ、冬だな」
 冬は長く、昔語りの知識は雪の下。
「これは、のもすをたたき起こそうと思う」

   1/14、かまくら一つ
   2011-01-14【06:00】知らず降りしきった雪に驚く朝

 かいたそばから積もる雪と追いかけっこしながら、カタは雪を掘りました。掘った雪でかまくらを作りながら、小さな雪だるまを幾つも丸めながら、のもすを呼び続けました。
 こつん。宝物に赤い手羽先が当たります。
 光、とくぐもった声がしました。
「遅かったじゃないか、カタ」
「こごえてしまう!!」
「うん。よく頑張ったよ」
 雪の下から藍色の太陽ばかりを見ていたのもすの目はまだ眠そうでした。でもしっかりとカタを包んで、感謝の言葉を伝えます。
「雪の中で沢山の事を考えたよ。そして消えていった。冬は永遠を思い出す。でもカタ、君は永遠より長い時間を過ごしただろう」
「のもすがいなくてつまらないから必死だったよ。あっという間だよ」
「そう、永遠より貴い一瞬」
「冬は、寂しい」
「雪だるま、幾つ作った?」
「四十一」
「もっとお作りなさい。賑やかになるから」
 銀野に、かまくら一つ。

   1/31 銀河鉄道
   2011-01-31【02:50】満月に近い明け方

 その夜は雪原が蛍光虫のように光を滲ませていました。空を見ても星はなく一面の灰色雲。星に見紛うは大粒の雪。カタが震える声で言いました。
「星が積もるよ」
「カタ、私たちは銀河鉄道に乗っているようだね」
 のもすが調子よく乗ってくれます。
 ひまなのです。
 本日は銀河鉄道にご案内。
「一面の雪原のここは天の川かな」
「宇宙という球に乗っているのかも知れないよ」
「星が収束する点かも知れない」
「星の帰る場所或いは目指す場所」
「銀河鉄道はアンドロメダへ」
「機械の体が欲しいのかい」
 ......脱線。
「雪はどこへ向かうのだろう」
「それはのもす、雪は何処へも行かないよ。循環しているじゃないか。この星を」
「万物は循環するのだろうか。星も循環するのだろうか」
「ぼくたちも循環しているの?」
「だとしたら、循環ではなく、我々は個なのかも知れないな」
「ぼくたちは宇宙であるということ?」
「そう」
「ぼくはのもすなの?」
「ふふ、違うだろうね」
「いいや、ぼくたちは一つの船に乗っているという事かな」
「そう、銀河鉄道にね」
 カタの想像とのもすの遊びの子守唄。カタはいつしか眠りにつき、眠らぬのもすは鉄道を見守り続けます。
夜は長く。


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